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From:OCN 2021.1 vol.112　にっぽん深掘り紀行：北海道・屈斜路カルデラ 日本最大のカルデラで感じる大地の鼓動／クイズに正解するとJCBギフト券が当たる！
にっぽん深掘り紀行
今月のテーマ：北海道・屈斜路カルデラ 日本最大のカルデラで感じる大地の鼓動
にっぽん深掘り紀行とは？：身近な文化・なじみ深い著名人・広く愛される絶景…。「にっぽん深掘り紀行」は、毎月のテーマを深く掘り下げながら、日本各地の関連スポットをご紹介するコラムです。温故知新から見える新しい日本と、読んで味わう旅気分をあわせてお届けします。
手つかずの自然が残る知床半島やシベリアから水鳥が飛来する釧路湿原など、壮大なスケールの自然が広がる北海道東部。そのほぼ中央、釧路から網走へ向かう釧網本線に乗って北へ1時間半ほど向かうと、列車は屈斜路湖（くっしゃろこ）と摩周湖の間を通っていきます。この二つの湖は、火山の噴火によってできた「カルデラ湖」です。　カルデラとは、火山活動により地表に大きなくぼみができた土地のこと。熊本県にある「阿蘇カルデラ」が有名ですが、日本最大は北海道弟子屈町にある「屈斜路カルデラ」です。今回は、この屈斜路カルデラを訪れ、火山活動を感じられるスポットを深掘りしていきたいと思います。
■「日本最大」が集まる屈斜路カルデラ■屈斜路カルデラの大きさは、東西に26km、南北に20km。最高で標高500mから1000mある外輪山に囲まれる中に、二つのカルデラ湖、三つの鉄道駅があります。大きすぎて現地に降り立つと、そこがカルデラ内とは気づかないほどです。　道東エリアでは、はるか昔から火山活動がさかんに行われてきました。現在の屈斜路カルデラを形成する火山活動が始まったのは約40万年前。約12万年前に起きた最大級の噴火では、その火山灰がほぼ北海道全域に降り積もったといわれ、4万年前に大きな噴火が起きた後、屈斜路湖が形成され始めました。　屈斜路湖の面積は79.7 km2、周囲は57kmあり、屈斜路カルデラの西側の約3分の１を占めます。カルデラ湖としては日本最大で、湖の面積としても日本第6位という広さです。
屈斜路の地名はアイヌ語に由来し、「湖の水が流れる川口」という意味です。アイヌの人々は単に「トー（湖）」と呼んでいたようです。湖畔から見える島は「中島」で、周囲は12km。湖中島としてはこれも日本最大です。溶岩ドームでできた島で、渡ってみたくなりますが立ち入りは禁止されています。　8月中旬に訪れると、屈斜路湖は晴れた日中でも20度程度。まるでエアコンの中で過ごしているような爽快さでした。屈斜路湖畔にはキャンプ場もあり、近くの川湯温泉からは自転車でも30分程度なので、天気が良ければ快適なサイクリングが楽しめます。私が行ったときには道路をシカが横切り、野性味あふれるサイクリングになりました。　
冬になると屈斜路湖はまたちがった顔を見せてくれます。2月に入ると氷点下20度になる日もあり、湖面が結氷するのです。全面結氷する淡水湖としても日本最大です。昼夜の寒暖差で氷が収縮と膨張を繰り返し、その一部が道のように盛り上がるという不思議な現象が発生。まるで神様が通ったような光景から「御神渡り」と呼ばれています。　カルデラの東側にあるのが摩周湖です。面積は19.22km2、周囲は19.8km。屈斜路湖と比べると4分の１程度の広さですが、「摩周ブルー」とも呼ばれる透明度の美しさで多くの観光客を集めています。
■火山活動で生まれた「川湯温泉」■火山活動によって生まれた屈斜路カルデラは、温泉が湧き出る場所でもあります。その代表の一つがカルデラのほぼ中央、屈斜路湖と摩周湖の間に位置する「川湯温泉」です。特徴は、とにかく硫黄の香りが強い強酸性ということ。泉質区分で言えば「酸性硫化水素泉」と「酸性硫黄泉」で、温泉地のあちこちから湯気が立ち上り、強い硫黄のにおいがします。殺菌作用が高く、硫黄による保温効果もあるため、明治の終わり頃から湯治場として親しまれてきました。　川湯温泉のキャッチコピーは「源泉100%かけ流し宣言」ですが、他にも「釘をも溶かす強酸性」という過激なコピーもありました。実際に湯に入ってみると、傷があったり肌の弱かったりする人には沁みそうなほどピリリと来る感じです。筆者が入った温泉には、入り口に1週間温泉に漬けて錆びさせた釘がサンプルとして置いてありました。
町の北側には、「川湯温泉足湯」というよく整備された公園があり、足湯を楽しめます。ここでは湧いた温泉が川になってチロチロと流れていました。観光客にはいい眺めですが、住民にとっては真水の水脈より温泉の水脈の方が地表に近いので、生活用の井戸掘りが大変だったそうです。　公園の先にある川湯神社の入り口の手水も、なんと温泉です。源泉の湯温は60度ほどで、夏は熱いですが冬は冷えてちょうどいいくらいなのだとか。境内には土俵があり、祭事には奉納相撲大会が開かれるようです。大相撲史上に残る横綱力士の大鵬がこの川湯温泉で少年時代を過ごしており、温泉街には彼の功績を讃えた「大鵬相撲記念館」もありました。
■釧路の発展に貢献も。今も活動中の「硫黄山（アトヌサプリ）」■川湯温泉街から南へ2.5kmには、屈斜路カルデラの中で今も活動を続けている硫黄山があります。屈斜路カルデラを作った大噴火の後に起きた小噴火の溶岩ドームが発達したもので、標高は512m。アイヌ語では「アトヌサプリ（裸の山の意味）」といい、硫黄臭を漂わせながら煙を噴き上げています。最近では数百年前に起きた小噴火により、アイヌが熊を追い落としていたことから「熊落とし」と呼ばれている火口もできました。　近づくと鼻をつくにおいでわかるように、今も大量の硫黄を含んだ熱水が日々吹き出ている硫黄山。それに目をつけ、この山を手に入れたのは日本四大財閥の一つ、安田財閥でした。まず、採掘された硫黄を北海道東部の主要港である釧路に運ぶために、1887年、硫黄山から釧路湿原北にある標茶（しべちゃ）まで約42kmの釧路鉄道を敷設。釧路湿原に鉄道を敷くのは技術的に難しかったので、標茶からは小型蒸気船を使って釧路川を約24km下り、釧路港まで出て鉱石を積み出していました。
硫黄は火薬の原料となるので、海外に輸出し外貨を稼いだようです。大正期になると、釧路近郊で炭鉱も開発されました。このような背景もあり、明治から大正にかけて釧路の町は大いに発展したようです。　硫黄山のふもとに着くと、かつての線路が残っているのが見えました。山のあちこちの噴気孔からガスを含んだ水蒸気が立ち上り、吹き出し口は硫黄の結晶で黄色くなっていました。　壮大なスケールからカルデラの中にいるとなかなか実感できませんが、湖畔の砂を掘って温泉が湧いてくるのを見てみたり、硫黄山の吹き出し口を見たりすれば、地中では火山がまだ活動中であることがわかるでしょう。ふだんの生活ではなかなか感じることのできない、大地の動き。日本最大のカルデラの地に足を運んだ際には、その鼓動を感じてみるのもいいかもしれません。
屈斜路カルデラの見どころをめぐる
カルデラ内には、火山活動の名残りや現在の活動を感じられる場所があります。観光地になっている場所もふくめ、見どころを紹介します。
【摩周湖】屈斜路カルデラが作り出した海抜351mにある火山湖で、周囲は約20km。注ぎこむ川がないため、透明度が極めて高く、その青さは「摩周ブルー」と呼ばれています。湖面からカルデラ壁が急角度で立ち上がっていることと環境保護のため、湖岸に降りることは禁止されています。観光シーズンの夏には霧が多く発生します。（アクセス）JR釧路本線「摩周駅」で下車。展望台まで車で20分。釧路空港から約1時間40分。
【屈斜路湖の砂湯】屈斜路湖の東岸には砂を掘ると温泉が湧き出てくる箇所があり、まだ火山活動が続いていることを実感します。近くにはキャンプ場やレストハウスもあり、子どもたちがスコップを持って穴を掘っている姿も。この周りは地熱で冬でも湖面が凍結しないため、渡り鳥のオオハクチョウが集まります。（アクセス）JR釧路本線「川湯温泉駅」から屈斜路湖バスに乗り換え「砂湯」で下車。車ならJR釧路駅から約1時間45分、釧路空港から約1時間40分。
【クッシー】1973年頃から屈斜路湖で目撃証言がある謎の未確認生物（UMA）。ネス湖のネッシーにちなんで、「クッシー」と命名され、一時はテレビ番組でも盛んに取り上げられました。しかし2000年以降は目撃証言がほぼありません。実際には屈斜路湖は酸性濃度が非常に高いため魚類も少なく、大型生物が棲むのには難しい環境です。今も湖岸の土産物屋にはクッシー像が飾られています。
【つつじヶ原自然探勝路】川湯温泉から硫黄山まで続く2.5kmの散策路。ほとんど高低差がない片道1時間程度の道で、さまざまな植物の姿を目にすることができます。針葉樹林から広葉樹林を通り抜けると急に視界が開け、6?7月に花が咲くイソツツジの群落に。さらに硫黄山に向かって進むと、背の低いハイマツが増えていきます。（アクセス）JR釧路本線「川湯温泉駅」で、阿寒バスに乗り換え「川湯温泉街」で下車。車ならJR釧路駅から約1時間45分、釧路空港から約1時間40分。
【釧網（せんもう）本線】網走と東釧路を結ぶJR北海道の在来線。その一部は廃線になった釧路鉄道の路線を利用しています。1931年に全線開通。かつて釧路が炭鉱などの産業で栄えていた時代には、SLが貨物を牽引していました。1975年には1日あたり1817人いた乗客が今では370人に減少。現在は毎年14億の赤字で、100円の収入を出すのに603円の費用が必要といわれています。
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